世界に一枚だけの紙「ロクタラップ」は、ネパールの手仕事

ネパールの伝統的な紙漉き(紙すき)の手法は極めて緻密な工程で行われますが、ミラン・バッタライとマヘシュ・バッタライ兄弟のもとで働く熟練の職人たちは、丈夫で繰り返し使える紙を1日に1200枚も漉き、形を整えて乾燥させることができます。彼らの仕事は、古くから伝わる文化的な工芸品を残すだけでなく、より持続可能で今の時代に合った紙漉きの事業モデルを発展させる上でも重要な役割を担っています。

ネパールの復興

Nepalese Papers社もまた、2015年に甚大な被害をもたらしたネパール大地震の余波の中で経営を続けている数多くの企業の一つです。マグニチュード7.8の揺れによって8778人以上が死亡し、地震によって引き起こされた大規模な地滑りが村を飲み込み、家々を引き裂きました。その後すぐにモンスーンのシーズンに突入したため、復興への歩みは妨げられ、2019年になっても、前進しようともがく地域社会をそれらの残骸が苦しめています。

大地震はネパールの観光業や経済に大きな影響を与え、若い男性の多くが働き口を求めて外国へ移住してしまいました。人口の83%が未だ農村部に住んでいるため、男性の労働者の減少により、これまでも男性と共に農業や紙漉き業に従事してきた女性たちに、農業での役割がより多く開かれることとなりました。ただ、女性の雇用の機会が増加したとはいえ、女性の教育レベルは未だ限定的で、小学校では男子生徒の方がはるかに多いのです。将来を見据える企業にとって、女性のエンパワーメントは未だ鍵であり続けています。

紙に残った記録

現在のような惨状になる以前の1980年代半ば、ミラン・バッタライとその弟のマヘシュは、カトマンズの半農村地帯で紙の生産を始めました。現在、同社の生産量に占める紙漉きの割合はわずかですが、これは何世紀も遡ることができるヒマラヤ地域の伝統産業であり、チベット仏教の僧院で僧侶が使用するために作られてきました。

紙は刻んだ木材ではなく、ヒマラヤ山脈の高地に生育する丈夫な植物「ロクタ」を原料とするのが一般的です。何世紀もの間、地元の地域社会では、この植物の弾力性のあるロープのような繊維を様々な形で利用してきました。これを液化して乾燥させることで、丈夫で長持ちする紙を作ることができます。この植物は、伐採された木とは異なり、収穫後も再び成長するため、環境への負荷が少ないのです。

長いこと紙漉きの工程はロクタの植物が育つヒマラヤの森で行われていましたが、近年では繊維を麓に移送し、より交通の便の良い場所で加工されるようになりました。これによって製造業者は一年を通して太陽のもとで乾燥させ、また地元の地域社会に雇用を提供し、更に遠方まで製品を届けることができるようになりました。

紙漉きには非常に乾燥した環境が求められるため、インドとの国境に程近い低地のバスティプールでその工程を行うことになりました。ここに紙漉きの施設をつくったのは、この地域で周縁化されている女性たちの雇用を創出するというマヘシュの計画の一環でもあります。ここでは数名の女性が働いています。

女性たちは植物の繊維を煮てから、すすぎ、手作業で色の濃い樹皮などを取り除き、きれいにします。それをホランダービーターと呼ばれる機械に入れ、液状になった繊維をブレンドし、滑らかなパルプ状にしていきます。ここバスティプールの施設には、季節にもよりますが、1日に900~1200枚作ることができる抄紙機が4つあります。フル稼働させれば1日あたりなんと湿った状態で20キロ相当の繊維を処理できることになるのです!

繊維の浮遊する液体を型の上に流し、薄いシートを作ることで、紙漉きができます。その後、枠を抄紙機から取り外したら、柱に立てかけ、太陽の方に向けて置き、太陽熱で乾燥させます。完成したシートはバンスバリの本拠地に運ばれ、高品質な染色と仕上げを施します。

先を見据えて

バンスバリの施設では正社員を90名雇用しており、繁忙期シーズンには500人に雇用を提供する規模を備えています。その役割の多くは、一人暮らしの女性や、移住してきた女性、ネパールの厳しい階級カースト制度において価値が低いとされる女性達にも与えられています。

ミランとマヘシュは伝統産業を近代化するにあたり、従業員へのエンパワーメントが必要だと認識していました。そのため、従業員には法定最低賃金を上回る給与を支払い、更なる健康手当や食料の支給も行っています。また従業員は子どもたちを学校に通わせるための支援も受け、年に一度の投票により役員、経営層、財務委員会を選出することで、自らの意思決定権を行使しています。

このような事業の成功は、惨状をもたらした2015年以降のネパール経済の再建に不可欠なものです。ラッピングアイテムの中の、「ロクタップ」をご覧いただくと、この見事な紙を見ることができます。またそれがどこから来たのかという今後の情報にも、是非ご注目ください。

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