専門医が教える 入浴が心身にもたらす効果・メリット

東京都市大学教授で温泉療法専門医の早坂信哉さんに、入浴の効果について専門的な視点からお話していただきました。

最近は自宅で過ごす時間が長くなっている人も多いでしょう。

そんな時、気軽にできる健康法が入浴です。

何となく体に良さそうな入浴ですが、改めてその効果やメリットを考えてみましょう。

◎温熱効果

入浴(浴槽入浴)の最大のメリットは「温熱効果」によるものです。

温かい湯につかると、まずは体の表面が温められます。血液は体の表面近くで温められますが、温められた血液は全身の血管を巡るので体全体が温まります。そして血管が広がり、皮膚だけでなく、全身の血の巡りが良くなります。

そうなると、血液によって全身の隅々まで酸素や栄養分が運ばれます。逆に、体にたまっていた老廃物や二酸化炭素は運び去られ、体外に排出されます。つまり、新陳代謝が活発になり、体はリフレッシュするのです。

入浴すると疲れが取れ、すっきりするのはこうした作用によるものと考えられています。

また、体が温まると筋肉は緩み、関節の緊張が和らいでいきます。例えば、肩こりは僧帽筋という肩や首回りの筋肉の緊張によるものですが、風呂にゆっくり浸かると、この筋肉の緊張が和らぎ肩こりが改善します。

慢性の腰痛や関節痛も風呂で温まると痛みが緩和します。体がゆっくり温まると、心理的にもリラックスできます。

ただし、こうした温熱効果は一定の温度以上で一定の時間入浴しないと得ることはできません。具体的には40℃のお湯に肩まで浸かる全身浴で、10分が目安です。湯の温度は少なくとも体温より高い38℃以上でないと体温は上がりませんし、時間が短すぎても血流が良くなりません。

もちろんシャワーでは温熱効果はほとんどありません(医師に全身浴を禁止されている場合はその指示にしたがってください)。

逆に湯が熱すぎたり、長く入りすぎると逆効果です。

42℃以上の湯に浸かると自律神経のうち、交感神経が興奮します。交感神経は「闘争か逃走の神経」などとも言われ、緊張が強い時に働く神経です。お風呂ではリラックスしたい方が多いでしょうから、交感神経が興奮して、血圧が上がったり、筋肉が硬く収縮するような入浴法は逆効果です。また長々と入浴していると体温が上がりすぎてしまい熱中症になります。このようなことを考えると、ピンポイントで40℃10分という入浴法に落ち着くのです。

◎入浴で代謝はアップする?

入浴すると、上記の通り血流が良くなって代謝が上がります。

血流が良いということは、心臓が速くかつ強く拍動しているということですので、その分、エネルギーの消費量が多くなります。しかし、入浴だけでダイエットにつながるほどのエネルギー消費にはなりません。入浴は、運動の強さで言えば軽い散歩程度ですので、安静にしているよりは代謝が上がるものの、本格的なダイエットをするのであれば、やはり食事制限や運動を併用する必要があります。

また、入浴を続けることで代謝が良い体になる可能性もありますが、研究ではまだ証明されるには至っていません。ただ、もし運動をするなら入浴後はお勧めのタイミングです。代謝が上がっており、ちょうどウォーミングアップしたのと同じような状態ですので、怪我もしにくくなり、同じ運動するにしても効率が良いのです。

◎より良い睡眠のための入浴方法、やってはいけないこと

毎日元気で過ごすためには、質の良い睡眠が大切です。

十分な睡眠が取れないと免疫力が低下します。良い睡眠を取るための入浴法は、そのタイミングが大切です。

質の良い睡眠のためには、ベッドに入る1時間半前に入浴を終了することです。ヒトの体は、体温がある程度下がってくると眠くなってきます。入浴しなくても夜は自然に体温が下がってきて眠くなるのですが、入浴すると、一旦体温が上がり、その後、1時間半ほどすると急速に体温が下がってきます。このタイミングでベッドに入ることによって、より良質な睡眠が取れることが複数の研究から分かっています。

逆に、よくありがちな間違いとして、温泉旅館などで「せっかくだから、寝る前にもしっかり入浴して体を温めてからぐっすり寝よう」ということで寝る直前に入浴すると、かえって体がほてって眠れない、ということになります。

◎お風呂のお供、入浴剤

入浴剤はお風呂タイムを楽しいものにしてくれますが、実は楽しいだけではありません。

多くの入浴剤にはしっかり健康効果があります。入浴剤の一番大きい作用は、入浴の温熱効果を高めるということです。つまり、血流を改善したり代謝を高めてくれます。特に、バスボムなど泡が出るタイプの入浴料は炭酸ガスを発生させますが、この炭酸ガスが皮膚から吸収されて、血管を拡張させて血流を改善させます。香りの良いものやきれいな色のものもたくさんありますので、その日の気分で楽しんでみるのも良いでしょう。

外出しない日も、夜にはお風呂に入って体も心もリフレッシュしてみましょう。

東京都市大学人間科学部教授・博士(医学)・温泉療法専門医

早坂信哉

高齢者医療の経験から入浴の重要性に気づき3万人以上を調査した入浴や温泉に関する医学的研究の第一者。テレビやラジオ、新聞や講演など多方面で活躍中。

著書「最高の入浴法~お風呂研究20年、3万人を調査した、医師が考案」(大和書房)など。 

   

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