消費者の手に委ねられた海のプラスチック汚染との戦い

今、プラスチック汚染による計り知れない海への影響が表面化してきています。消費者である私たちにまだ希望が残されているとすれば、この海洋汚染問題に取り組むグループが示してくれていること。それは、この戦いに逆転劇を起こせるのは、私たち日々の選択の仕方だということです。

イギリス政府は、化粧品中のマイクロプラスチック、マイクロビーズの使用を2017年中に禁止する計画を発表しました。これは、アメリカ国内での同様の動きに続くものです。しかし、このプラスチック微粒子の禁止は、海のプラスチック汚染というとてつもなく大きな問題のほんの序章にすぎません。NPO団体Plastic Oceansとイギリスのブルネル大学による最新のレポートによると、この問題の根本的な解決方法は、クローズド・ループでプラスチックを使いながら、循環経済を実現するしかありません。

A Plastic Ocean

インド洋ではピグミーシロナガスクジラの子どもが泳いでいる姿を見ることができます。海面に見える脂ぎったスープのような「渦」は、マイクロプラスチックの塊です。
ここに浮かぶマイクロプラスチックは、廃棄されたプラスチック製の袋や容器が海に流された後、日光で細かくなっていった微粒子です。この近海にいるクジラは、一度口を開けるとマイクロプラスチックが混ざる75,000リットルもの汚染水を餌と間違えて飲み込んでしまいます。

これはドキュメンタリー映画「A Plastic Ocean」に出てくるシーンの一つです。この映画の制作組織であるPlastic Oceansは、ブルネル大学の研究者と協力し、映像の真相究明のために新たな研究を行いました。

その研究結果によると、最近では世界的に毎年3億トンのプラスチックが生産されています。バイオマスの総量で見れば、その量は世界中の成人の数と同等な量となります。そのうち、実に800万トンは陸地から海にたどり着くという結末が待っています。科学者によれば、この量は世界の人口増加と拡大する経済開発により2025年まで大幅に増加すると考えられています。

このプラスチック汚染には、食物連鎖から見えてくる明らかな証拠があります。レポートによれば、世界中の90%の海鳥は何らかの形で海に浮かぶプラスチックごみを食べてしまっています。また、食物連鎖の最下層にいるプランクトンは、顕微鏡でしか見えない微細な生き物かもしれませんが、それはクジラや魚などの海洋動物にとって大事な食物源であり、プランクトンが海に流れ着いたプラスチックごみを吸収すると、それらを餌とする捕食者たちを経て、食物連鎖の上方までたどり着き、最終的に人間にまで影響を及ぼします。

廃プラスチックは、汚染化学物質を侵出しながら環境的、科学的危害をもたらします。ブルネル大学の研究者によれば、そこには二次的危害が存在します。マイクロプラスチックは海にたどり着いた後、水と混ざり合わず存在し続ける他の工業系・農業系の化学物質を吸収しながら、マイクロプラスチックに付着した有害物質は濃縮されていくのです。研究の中では、日本の海岸線近くで採取されたプラスチックの粒子に付着した有害物質の濃度が周囲の海水に比べ100万倍も高いこともありました。

映画プロダクション、Plastic Oceans Foundationのエグゼクティブ・ディレクターであるジョー・ラクストンは語ります。

「プラスチックが海の中に入ると、他の化学物質をより吸着しやすくなることが分かりました。だからこそ、海の中においてはプラスチックは危険物質と分類されるべきなのです。」

プラスチック製品を作り出すプラスチック粒子は、他にも深刻な問題を抱えています。「現在、再生プラスチックはバージンプラスチックに比べてコスト高です。つまり、再生プラスチックへの課税を低くするシンプルな政策があれば、このプラスチック粒子にまつわる問題は大幅に改善されます」とラクストン氏は語ります。

映画「A Plastic Oceans」は、プラスチック汚染と戦う一つのツールです。この問題への世の中の認識が高まる中で、映画制作者たちは消費者、企業、政府が変化を起こす変化の波を生み出すことを望み続けています。彼らはこの映画や研究結果を多くの政府に届け、使い捨てされ続けるプラスチックによる高まる海への危険性、環境や人間の健康被害のリスクを政策立案者たちに気づいてもらい、この問題に対しての考え方を変えてもらうよう働きかけています。

ラクストン氏が危険を承知で初めて海に浮かぶプラスチックを実際に見に行った時、彼女はプラスチックごみでできた島を目にすると思っていました。ところが、彼女が実際に目にしたものは、それ以上にひどいものでした。

「私が見たものはとても想像できたものではありませんでした。何隻もの船が集まったような長さにもなる量のプラスチックがプランクトンと混ざっていました。とにかくものすごい量で、連日連夜そのごみを拾い集めていましたが、トロール網はプラスチックですぐにいっぱいになってしまいました。」

太平洋ゴミベルト

アメリカの西海岸と日本を繋ぐ北太平洋には海洋ゴミが多く集まる太平洋ゴミベルト(Great Pacific Garbage Parch)と呼ばれる海域が存在しています。海流の影響で海洋ゴミ渦巻いているようなこの海域には、Western Garbage PatchとEastern Garbage Patchの二つの”ゴミの島”があります。風向き、地球の自転、陸塊が生み出す海流の流れ、海洋渦によって、この二つの”島”に太平洋に流されたゴミが集まってきます。

Plastic Oceans Foundationにとって、リサイクルは最後の手段です。プラスチックがリサイクルされると、原料としてのプラスチックの質はどうしても落ちてしまいます。数回のリサイクルを経たプラスチックは使い物にならないこともあります。「もちろん海に投げ捨てるよりはよっぽど良いです。ただ、プラスチックを使わないということが最初にやるべきことです。何よりもそれが私たちが取るべき最善策です」とラクストン氏は説明します。

プラスチックがリサイクル回収ボックスに集まる前にも、プラスチックが海にたどり着かないようにする方法があります。それは人々の力から始まります。

「ビジネスを動かしているのは人々です。需要が供給を動かすため、人々の需要が変われば、企業側は供給方法を変えざるを得ません。もし消費者側が商品の中身だけではなく、どのようなパッケージが使われているのかも気にしながらものを選ぶようになれば、他の企業も同様の動きをし始めるでしょう。」

供給側を変えるための需要には大勢の力が必要ですが、私たち一人ひとりができることもあります。ラクストン氏が感化された秘話によれば、プラスチック製のストローを使うことを止めた5歳の女の子は、地元のレストラン経営者にプラスチック製のストローの代わりに紙製や竹製のストローを使って欲しいと働きかけたと言います。

「こんな小さな子どもでもできることがあるのなら、誰にでも変化を生み出す力があると思うのです」

City to Sea

City to Seaは、使い捨てプラスチック製品の廃止を目指すイギリスのNPO団体です。企業や環境活動家それぞれが少しずつでも小さな変化を生み出せば、大きな変化の波が生まれると信じ、全国でキャンペーンを展開しています。

その一つが、イギリス国内の小売業者にプラスチック製の綿棒の販売を止めてもらうためのキャンペーンです。2016年までに紙製の代替品に切り替えることを目指しました。15万人以上が #SwitchTheStick署名にサインをし、プラスチック製の綿棒のボイコットを宣言しました。City to Seaの創立者、ナタリー・フィーは「このキャンペーンが小売業者にもたらしたものは、、社会の中に強い変化を望む声があるということを可視化させたことです」と話します。規模は小さくても、この一つのことにフォーカスしたキャンペーンは、リサイクルされることのない年間320トンもの使い捨てプラスチック製品の生産に変化をもたらすという素晴らしい結果になりました。

イギリスのブリストルを拠点に、自らを「グリーン・チャンピオン」と呼ぶCity to Sea。フィー氏はプラスチックごみは非常に大きな問題だと言います。「でも、私たちがプラスチック袋を使わない、ペットボトルを買わない、綿棒を使わないという小さなことを始めることがこの問題の突破口となることは間違いありません。」

フィー氏は、プラスチックがお腹に溜まった状態でお腹を空かせて巣にいるアホウドリのひな鳥をテレビで見たことで、何かしなくてはと思い立ったと言います。

「テレビの前で座っているだけではいてもたってもいられなくなってしまいました。まるで私が毎日使っているプラスチックが、何千マイルも遠くにいるそのひな鳥のお腹に溜まったプラスチックに見えて仕方ありませんでした。私の日々の選択がとても間違っているように感じ、何かしなければと思いました。」

現在、消費者のペットボトルの買い方、使い方を変えることはCity to Seaが他団体と協力して取り組む活動の一つです。彼女らは、Refill appと呼ばれるアプリを通して、ウォーターボトルを持ち歩き、アプリに登録された水の補充が可能なカフェやレストランを紹介しています。ユーザーは水を補充することでポイントを貯めることができ、そのポイントが貯まるとステンレスのウォーターボトルをもらうことができます。すでに700以上の店がイギリス国内でこのアプリに登録されていますが、このアプリの大きな目標は消費者の行動を変えることです。

「これはタブーとなってきたことをぶち壊すことを意味しています。ユーザーはお店に行き、無料で何かを頼むことに不快な気持ちを持たなくなります。そして、ウォーターボトルを持ち歩くことに意味を持ち続けます。」

イギリスでは、商業施設では要求があった場合には、水道水を提供することが法律により定められています。しかし、最近行われた調査によれば、71%の回答者が、商品を何も買わずに飲み水を求めることに抵抗を感じています。

ソーシャルメディアもまた、プラスチックごみとの戦いに一石を投じています。City to Seaは動画コンテンツを制作し、ウェットタオルの裏側の隠された真実や、プラスチックフリーな生活の紹介をしています。

重要な変化を実現させるということにおいて、フィー氏はアドバイスがあると言います。

「まず、家に置いておきたくない商品は手に取らないこと。そして、その生産者にコンタクトするか、自らキャンペーンを始めることです。小売業者や製造業者は社会からのプレッシャーに応じます。その声は大きくなければならないので、そこにはコーディネーションも重要となります。」

個々人でも変化を生み出すことができる、そう語るフィー氏は、消費者が変化を生み出す力があると信じています。

Photos courtesy of David Jones

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